ゆめかうつつか

記憶の整理

第一夜

紫やピンクの照明が怪しく光る仮想空間のデュエルスペース。私は今、ここでポケモンカードのフリー対戦をしている。

最近ポケモンカードを始めた分際でなぜ見知らぬ男に勝負を挑んでしまったのか。結果は何度対戦しても惨敗。

全く勝てない苛立ちから私は衝動のまま立ち上がり、男のポケモンカードに付帯しているレアアイテム「乃木坂46のライブチケット」をビリビリに破いてその場から逃げた。

 

どうやらここはメタバース内のアミューズメント施設のようだ。次に目を付けたのは何の変哲もない卓球台。何やらぼんやりと男性が一人立っている姿が見える。またしても身の程知らずな私は対戦を申し込む。

卓球台に近づくと、先ほどはよく見えなかった男の顔がパッと明りに照らされた。

・・・あ、宮迫だ。元雨上がりの宮迫博之だ。まぁ、いい。誰でもいいから卓球を始めよう。

 

宮迫はふざけてばかりで全くゲームにならなかった。それどころか、宮迫サイドに落ちたピンポン玉を全く拾ってくれないので、私が走り回る羽目になる。

堪忍袋の緒が切れた私は、またしても怒りに身を任せ、宮迫を殴って、逃げた。

 

気づくと私はメタバースを離れ、現実世界にいた。戻ってきた地点は宗教施設の敷地内の庭だった。

歌いながら雪の上で集う信者たち。何かの記念パーティのようだ。見慣れぬ雰囲気に恐怖を感じた私は、皆出払っていて誰もいないであろう宗教施設の中に逃げ込んだ。

 

なんと宗教施設の中ではヒグマが放し飼いにされていた。姿を見られるやいなや、ものすごい速さで熊が近づいてくる。死ぬ。死ぬ!!!!

右も左もわからない施設内を必死で逃げる。途中、同じ状況の女性3人、男性1人と出くわした。言葉を交わす間もなく、一緒になってとにかく走る。

鉄の扉で細かく仕切られた廊下をくぐり抜け、もつれる足で階段を駆け下りる。半分転がり落ちるように。

なんとか最後の鉄の扉にたどり着き、外の雪にバフっと飛び込む。振り返るとクマは追ってきていなかった。私の後に続いて出てきた女性3人によると、男性はクマに食い殺されてしまったらしい。

 

これからどうしようと立ち尽くす私。気づくと隣にコタローちゃん*1(実写)がいた。ここは危険だ、とコタローちゃんと二人、急いで施設の敷地を離れることにした。

その時、信者が我々の姿に気づき、一斉に追いかけてきた。クマの次は人間かよ!?

雪に足を取られて思うように動けない。それでも必死で足を動かす。

敷地を抜けると目の前に幼馴染Aの実家が現れた。私は考える間もなく、Aの家の自家用車に乗り込んでアクセルを思いっきり踏み込んだ。

 

しばらく走っていると追っ手の姿は見えなくなっていた。いつの間にか私の乗っていた車はバイクに、後部座席には別の幼馴染Yが相乗りしている。

Yが言うには、この世界は色々な事故のケースに巻き込まれた場合の対処法を教えてくれる映画の中らしい。

急こう配の坂道を車間距離も空けずに他のバイク集団と猛スピードで下り、スキージャンプのブレーキングさながら、坂の下の突き当りにある商店のギリギリ手前で急停止した。

 

集団は一斉にバイクから降り、商店へ向かった。商店は昔ながらのレトロな佇まいで、私もYも他のバイカーに倣って着いていく。商店では岡崎体育が店番をしていた。

商店の近くにはそれはそれは大きなゴミの山があった。ゆうにビルの3階ぐらいの高さはあると思われた。商店から帰る際にはその山をこの身一つで越えていかなければいけないらしい。

岡崎体育はにっこり笑いながら「その山のモノは全部持って行っていいですよ」と言った。何かいいものはあるかと見回してみたが、どう見てもガラクタしかない。いらない。

全身を使って大きな山をよじ登り、再びバイクに跨って私はその場を立ち去った。

 

ー終ー

*1:『コタローは一人暮らし』の登場人物